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続 越後妻有 大地の芸術祭2022

前回のブログ「越後妻有 大地の芸術祭2022」の続きとして、他のアートワーク、同じ施設「越後妻有 里山現代美術館 MonET」内で鑑賞できる3作品についても触れたいと思います。

1つは、「Force」という作品。2021年の新作です。
アーティストは「名和晃平」さん。

黒いシリコーンオイルの液体が多数の糸状となり落下し続けています。床面は黒い池のようになっており、糸が液体の面に接する部分で、その僅かな流れがじわじわと動めいています。
静かに、重力が視覚化されるようなインスタレーションです。

この作品は、離れて見る全体も、近づいて見る細部も非常に美しく表現されていました。
粘性があるシリコーンオイルの動きは、水などの液体が流れる速度よりじっくり時間をかけて流れ落ちるだけでなく、雫状にならず糸のように見えます。その動きは、ぱっと見ただけではわからず、池状の面に接する部分でようやく視認されることに。
物質の落下運動がスローモーションで示されているようでもあり、またオイルの微細な動きは飛び散ることもなく、無音でいつまでも続きます。
時間や空間を違った切り口で見せているような作品でした。

展示のディテールも空間(床、壁、天井、自然光、人口照明)に対し、とても注意深く作品が作り込まれている気がしました。

もう1つは、「Palimpsest:空の池」2018年の作品。
アーティストは「レアンドロ・エルリッヒ」さんです。
レアンドロさんは、金沢21世紀美術館にある「スイミング・プール」をはじめ、国内外で建築空間と一体となる注目作品を数多く製作されています。

この日は曇天でしたので正直なところ「ちょっと残念だなぁ」という気持ちもあったのですが、この作品を体験する天候としては、むしろ良かった気がしました。

池を囲むRC造の大きな回廊空間が特徴といえますが、レアンドロ・エルリッヒにより池の床面には、空と建築の鏡像の絵が貼りこまれています。建物2階の指定ポイントからこの作品を見ますと、描かれた像と建物の水に映る像がぴったりと重なり合います。

紹介した写真は、曇り空なのに、池に映っているのは青空?という不思議な状況が生まれています(池の床面は、晴天時の絵のため)。
この景色は、晴天時には見られない曇天ならではのものだと、楽しめました。

1階から見ますと、浅い池の床面に絵が貼り込まれたグラフィカルな状況がよくわかります。

この池には、30分ごとに霧が発生します。
子ども・大人問わず、池には裸足になり入って楽しむこともできます。

この霧は作品「霧神楽」、2022年の新作です。
アーティストは「中谷芙二子」さん。
人工的な装置によって霧を発生させてつくられる作品は、「霧の彫刻家」や「霧のアーティスト」と呼ばれる作者の代表的なシリーズで、1970年代から世界各地で発表を重ね、大きな反響を呼んでいます。

<以下ガイドブックより/中谷芙二子さんのコメント>
「霧の彫刻」は、大気が鋳型となり、風が彫刻刀となって、刻々と変化する環境彫刻です。たゆたう霧が見え隠れする風景を生み出し、様々な境界を反転させるこの彫刻のことを、Negative Sculpture と呼んでいます。
「空の池」は、L.エルリッヒの真骨頂=逆転の論理=の極みです。この空間を体感したとき、逆転の発想の中に見え隠れする作者の自然に対するリスペクトに共振し、神聖さを感じました。と同時に、固定観念を外す逆転の軽やかさに目を見張りました。私は「空の池」の空間に「霧の彫刻」と響き合うものを感じています。

こうしたサイトスペシフィック・アートは、当然ながらその場所へ足を運ばずには体感できません。また同じ作品であっても訪れる季節や時間、鑑賞者の意識・視点が変われば、その時々で異なる感覚が得られるのだと思います。

優れた芸術作品に出会いますと、作品は異なっても多様な価値観をおおらかに受け止めてくれるような懐の深さ、それぞれに愛情のようなものがにじみ出ていると感じます。

<補足>
建築は、原広司+アトリエ・ファイ建築研究所の設計で、2003年につくられた「越後妻有交流館・キナーレ」で、2021年に「越後妻有 里山現代美術館 MonET」に改修・改称されています。

blog category:展覧会等イベント視察
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2022-09-15 | Posted in diary, blog |