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犬山の住宅 /House in Inuyama
設計:hm+architects/エイチエム プラス アーキテクツ
House in Inuyama
犬山の住宅
<地域の文脈を受け継ぐ住宅>
国宝犬山城で知られる愛知県犬山市、城下町地区の南に位置する木曽街道近くの田圃のなかに建つ住宅です。
建築士でもある建主さんは、「この田園風景に調和しながらただ馴染むだけでなく、歴史のある地 域の魅力を際立たせるような建築、生活はコンパクトでシンプル、表現としては奇を衒うことなく控え目でノーマルな佇まい、しかし他にはない現代的な住宅」を望まれました。また建築主として北側隣地(耕作地)へ建築の影を大きく落とさない配慮も気にされていました。
設計にあたり、20年ほど前に犬山市伝統的建造 物群保存対策調査グループの補助員として関わらせていただいた経験が思い出されました。 当時、犬山城下町の町家・町並みの歴史的な評価のため、初めて実測・聞き取り調査が行われ、いくつかの建築的状況が確認されました。個人的にはそのうち、調達可能な木材の都合などから建設時期が古い町家ほど、建築の軒・階高が低いものが多いこと、土間のあるプランと共に往時の暮らしを感じさせるスケールの小さい建築に好感を抱きました。しかし一方で、古い町家等に生活者としてそのまま暮らすことの不便さから、保存を希望されない所有者も多く、地域での建築文化保全の難しさも同時に知りました。 また計画地の付近では、同じ犬山でも城下町の町家が連続する表情とは異なり、田園風景の中の戸建住宅となります。敷地付近の木曽街道沿いの建築も世代交代とともに様々なタイプの住宅に建て替わり、頼るべき町並みなども見出しにくく なっています。しかし全体的に見ますと桁行き東西方向の配置で切妻屋根の平入り形式の建築が比較的多く存在していました。
住まいへの要望と地域の状況から計画では、古い建築の外観や平面形式をそのままトレースせずとも、この地の文脈を感じさせてくれる要素を抽出 し、現代のライフスタイルに適度に抽象化して重ねあわせた住宅の構成を考えました。 そして次に示す項目を意識した、小さな木造住宅へと至りました。
・敷地周囲に塀や生垣を設けない。境界を地域に開き水平に広がる田圃の中に建築がポツンと浮かぶようなイメージとする。
・建築は桁行方向を東西、切妻平入り形式。軒高を低めに設定し、地域に古くからある建築スケールのような控え目な佇まいとする。
・北側に極力影を落とさない屋根形状。切妻の折れ屋根とするが、地域の伝統的な勾配とも異なる角度を持たせる。遠景の山並みも考慮する。
・外装は時とともに表情を変える縦羽目板張り。木板が退色し、やがて屋根のシルバーグレー色にも馴染んで、ゆっくりと風景が醸成される。
・熱負荷軽減のため、外壁通気は屋根通気から棟換気まで連続。冬期は土壌蓄熱式輻射床暖房により室内全体が快適な温熱環境に。(省エネルギー等級4取得)
・平面計画は機能的かつシンプル。東西に伸びやかな奥行き約13mの一体的な居住空間をつくる。常に家族の気配、光と風が感じられるややパブリックな空間。
・土間室を設け、リビングに連続させる。ご夫婦の趣味である自転車のメンテナンスほか多目的に活用可。
・室内動線は路地のような設えに。一体空間の中にスケールの変化も与えるリニアで機能的な通路。
・コモンシェルフと名付けた家族共用の壁面収納。長さ10mの収納を動線に沿わせ、多様なニーズに対応。
・庭はフラットなランドスケープ。以前水田であった土地の記憶を尊重し水平に広がる芝張りとする。デッキテラス・室内に連続する活動的な庭。
・植栽は、四季の変化に富んだものを選定。常緑樹木の配置で隣地への視線にも配慮する。
ご家族のお話では、引越しされてから、地域の方々が散歩や通勤途中に足を止め、 通りから奥まったこの住宅を眺めて声をかけて下さることが度々あるそうです。
ご要望であった「風景に馴染む一見どこかにありそうな控え目な佇まいと、ここにしかないという独自の存在感」を他を圧することなく獲得しつつ、 地域の建築文化を受け継ぐことにもなっていれば幸いです。
↓こちらに家具の解説を加えています。
造作家具/Furniture – 1
よろしければご覧下さい。
所在地 愛知県犬山市
主要用途 住宅
設計監理 hm+architects 一級建築士事務所/伊原洋光・伊原みどり
設計協力 裕建築計画
構造設計 藤尾建築構造設計事務所
施工 誠和建設
敷地面積 498.50㎡(150.79坪)
建築面積 100.15㎡(30.29坪)
延床面積 100.15㎡(30.29坪)
規模 地上1階
構造 木造
受賞 第48回 中部建築賞 受賞
Best of Houzz 2018 デザイン賞 受賞
Best of Houzz 2019 デザイン賞 受賞
photo:Shigeo Ogawa