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免震レトロフィット&ネーミングライツ

2024年秋学期も中部大学の非常勤講師として、2つの講座を担当させていただいております。
2016年からもう9年目・・かなり長くお世話になっています。
今回は、キャンパス内の施設についてお伝えしてみます。

愛知県、春日井市キャンパスにアクセスしますと、まず正面に「9号館」が見えます。
1万人以上の学生数・職員の方々を出迎えるように建っており、足元はピロティ状の空間を持っています。
みなさん日々ここを通行していますが、実はこの建物には、特殊な建築技術が盛り込まれていますので・・私が知る範囲で補足させていただきます。

この建築は、今から58年前、春日井キャンパス整備の黎明期である1966年に竣工した建物(設計:大西設計)ですが、昔も今も大学の顔となる建築として存在しています。
元の建築は、当然ながら旧耐震基準(1981年以前)の設計のため、後に現行法規の安全基準を満たす耐震改修が必要になりました。
耐震改修では通常、ピロティ部分に斜めブレース材を追加するなどして水平耐力を高める補強が多く採用されますが、ここでブレース補強をしますと、ピロティ部分の通行と外観イメージが大きく変わってしまうため、大学としては望ましい改修方法ではありませんでした。
そこで外観・機能をほぼ変えずに地震時に安全性を確保することが可能な「免震レトロフィット」工事が検討・採用されました。
当時、キャンパス整備(1976年〜2015年まで)の設計を行っていた第一工房と、川口衞構造設計事務所が中心となって、既存の建築物に後から免震性能を与える「免震レトロフィット」が提案され、1997年(6月〜10月)に工事を行い現在に至っています。私が第一工房に在籍する少し前の竣工です。

ちなみにご存知の方も多いと思われます、世界遺産となりました、ル・コルビュジェ設計の「国立西洋美術館」(東京・上野)は、「免震レトロフィット」工事の国内初の事例としてウィキペディア等にも紹介されています。この事例が1998年竣工(工事:1996年〜)ですので、その竣工前年に中部大学「9号館」が国内で実現しているのは、かなり先進的な試みであったことがわかると思います。
さすが、世界的な構造家 川口衞(かわぐちまもる)先生ですね。

△写真の右側が「9号館」の鉄筋コンクリート造の柱型です。ピロティの外周にタイル張りの蓋状のラインが見えます。
免震レトロフィット工事では、既存建物の基礎下まで掘削・ジャッキアップしてから新たに免震装置を挿入します。さらに地震時には免震層が水平に動くため、隣接する建物とはエキスパンションジョイントを設ける必要があります。必要なクリアランス分は、全体を曳家する状況です。
外部の建物周囲では、この蓋部分がスライドして対応することになります。
地上に見える部分からでは、なかなかイメージしにくいですが、かなり大変な工事内容ですね。
建築学科の学生さんには私の担当授業でこの事情をお伝えしていますが、他学科の学生さんでこの話題を知る人は少ないでしょう。
学内の小ネタになるかな。

今年、中部大学内で新たな話題がありました。
それは「ネーミングライツ制度」です。
学内の既存施設、食堂の「第一学生ホール」では、命名権を名古屋の企業「湯浅糸道工業株式会社」さんが取得され、昨年までと違った施設名称『湯浅糸道ホール」というサインが設置されていました。
企業としては社名を知ってもらい、就職希望者が増えて欲しいという思いがあるようです。

以前からキャンパス内の各施設を知っている私としては、あらかじめネーミングライツと知らずにサインを目にして
「えっ!何でこの名称??」
とかなり新鮮な印象でした。すぐにスマホで調べてなるほど・・
社会の動きをキャンパス内で感じるようで、なかなか良いですね。

また、2024年から学内に「スターバックス」が新規出店されていました。
場所は、中部大学内の中心部にある「20号館」(設計:第一工房、1977年竣工)の1階です。建設当時、学内で初めての高層棟となった建築です。

こちらも竣工後半世紀近い建築ですので、耐震補強が行われています。改修設計は、第一工房と川口衞構造設計事務所との協働で、こちらの補強は耐震の鉄骨ブレースが開口部に追加されていますが、無骨な意匠とならないよう構造ディテール・色彩の検討共、慎重に行われています。
オリジナルの建築イメージを損なうことなく、さりげない補強を実現しており、ホットのカプチーノを片手に、つい建築(先輩方の仕事ぶり)を感心して見てしまいます。

すでに秋学期も4週目。
食欲の秋・スポーツの秋・勉強の秋・・などと言われます。
学生さんのパワーに負けないよう頑張っていきたいです!

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2024-10-20 | Posted in diary, blog |