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設計者の好みが滲み出るところ
建築の設計をされる方は世の中にたくさんいらっしゃいますが、建築の「ある部分」を注意深く見ると、設計者のちょっとしたデザイン的なこだわり、好みや価値観の違いを理解しやすくなります.
それは「建具金物」です.
建築に使用される金属部材全般を建築金物といいますが、中でも扉や窓に取り付けるものを「建具金物」と呼びます. この建具金物は特に設計者のセンスが出ると言って良いでしょう. 機能、デザイン、コストの各要素を総合的に検討することが必要で、何を優先したかったのか、その判断の仕方などが滲み出やすいからです.
今回、設計監理をさせていただきました「犬山の住宅」では、建具金物を専門に製作している「堀商店」という会社の製品をいくつか使っています.
写真は「堀商店」東京新橋ショールーム. 明治23年創業.
現代的なビルが建ち並ぶ中、スクラッチタイル張りの建物には老舗の存在感があります.
製品部材へのこだわり、しっかりしたモノづくりをしていますので、著名な建築家の方が使われることもしばしば.
今回、住宅建主のご主人は一級建築士の資格もお持ちの方ということもあり、本物志向?で建具金物を提案させていただきました.
一部ご紹介させていただきます.
中央の木製玄関扉は、ご夫婦からの要望があって引戸にしています.
堀商店の錠前は、丸穴の「トライデントシリンダー」と呼ばれるもので、ピッキングが困難な構造です.
トレンドに左右されない定番アイテムの1つです. 見た目、どことなく愛嬌もあります.
各パーツ、金属の肉厚がしっかりしており、耐久性も優れています.
玄関内部. なお、ガラス窓の各所にはブラインドが設置されます.
木製ガラス引戸の先端につけるこのような鍵(引戸内締り錠)もあります.
建具に設置する前の、パーツのみの写真. ホワイトブロンズの質感もイイ感じです. 引手兼用としました.
窓枠まわりに鍵の金物(クレセントなど)が無くスッキリします.
そのほか室内のレバーハンドルは、芯からハンドル端まで86mmというコンパクトなもの(LBRシリーズ)を選定しました.
住宅のスケールにしっくりくるサイズです.
シンプルなデザインですが、美しいカーブラインとステンレスの質感には、いつまでも飽きのこない品があります.
かつて建築の設計において金物は、オリジナル設計図面からの特注製作(手作りの一品生産)が基本でしたが、時代と共に機能・生産コストの合理性などから既製品が主流になってきました(今でももちろん特注製作はあります).
よって現代の設計者には、オリジナル製作ばかりを求めず、既製品ならではの価格・クオリティを生かしながら、建築の各部位に最もしっくりと、さりげなくなじむ製品をセレクトする審美眼も求められています. 「既製品だから誰が選んでも同じ?」ということはなく、多岐にわたる建築の部位、異なるメーカーの様々なアイテムを使って全体イメージをちぐはぐにならないように整理するのは、実は腕の見せ所の一つと言えます.
私たち hm+architects は、建物全体のバランスを常に考えて、金物を見せつけるようなコーディネートはせず、「一見普通にありそうでも、何か仕上がりが違う?」という気が付きにくいような小さな配慮を大切に積み重ねていきます.
そして結果的に控えめながらも、どこかエレガントな雰囲気を纏うような建築をつくることが好みと言えます.
そう感じていただけるとうれしいのですが・・