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江之浦測候所の見学会/前編
先日、神奈川県小田原市にあります、「江之浦測候所」を見学してきました。
この見学会は、日本建築家協会関東甲信越支部住宅部会が主催で、設計された新素材研究所の榊田倫之さんと一緒に施設を巡る企画となっています。設計者から直接解説を聞くことができるという、大変贅沢な見学内容です。先着25名限定の申込み枠に間に合い、参加させていただきました。
集合場所は、最寄駅のJR東海道本線「根府川駅」。
可愛らしい小さな無人駅ですが、相模湾を眺めることが出来る何とも素晴らしいロケーション!!
この日は晴天にも恵まれ・・
まずは駅よりシャトルバスの移動から、見学スタート。
現代美術作家、杉本博司さんの構想から20年もの歳月をかけて開館(2017年)した「江之浦測候所」。
発表時から何かと話題を集めていましたが、私は今回が初訪問です。
ギャラリー、屋外舞台、茶室、庭園などで構成され、とにかくたくさんの見所があり、現在も新たな施設を追加する構想が進行中とのこと。
設計は新素材研究所(杉本博司さんと建築家の榊田倫之さんがパートナー)ですが、榊田さんのお話では30代の全てをつぎ込んだという程の壮大かつ大変なプロジェクトです!!
敷地内で、最も大きな建築ヴォリュームは、この「夏至光遥拝100メートルギャラリー」です。
標高100mにあり、長さも100m。夏至の軸線に配置されています。
建築の南面には大谷石の荒々しい長い壁面が置かれ、その壁から片持ち(キャンチレバー)でシャープな鉄骨屋根が水平に、北面はフレームレスのガラス面が伸びています。
写真:庇の先に樹木に重なって見えます、ベージュのコートで後ろ姿の方が榊田さん。
住宅部会のメンバーにはイヤホンガイドが配布され、榊田さんが各所で詳しい解説をして下さる見学スタイルです。少し離れた場所に居ても榊田さんのお話が聞きやすく、とてもイイ感じの見学です!
この大谷石の厚みは20cmほどあるそうで、石切場から切り出した際の底面をそのまま壁仕上げ面にしているため、かなり大きな凹凸があります。
切り出す時の底面、「地球」に面している側を見せて張っているため、杉本さんは大谷石の「地球面仕上げ」と呼んでいるそうです。
一般に、建築設計では30mm程度の自然石仕上げが多いと思われますが、それに比べますとこの厚さは尋常ではありません。
ちなみに榊田さんは、初代「大谷石大使」に任命されているとのことです。
このギャラリーには、杉本さんの代表的な作品「海景」シリーズが展示されています。
建築の水平線、「海景」作品の水平線、その奥に広がる相模湾の水平線・・
大きく跳ね出した先端部のバルコニー。そこからの景色は、本当に素晴らしいです。
市街化調整区域でかつ農地のミカン畑の土地にこれらの施設をつくるのは、実務的には容易ではなかったというエピソードを榊田さんからお聞きしました。行政手続き上、多くのハードルをいかに乗り越えて今に至っているか、ここでの記載は割愛しますが、本当に大変なプロセスだったと思われます。
こちらは、冬至の軸線につくられた「冬至光遥拝隧道」です。
「夏至光遥拝100メートルギャラリー」の下をトンネル状に貫通しています。
この隧道は、赤錆色の見え方が特徴的な「コールテン鋼(耐候性鋼)」と呼ばれる鉄で製作されています。
また図面上の検討だけで、本当に冬至の太陽光が通るのか・・
施工後に失敗は許されない!
ということで、3年に渡る緻密な事前調査と準備をされて進めた工事だそうです。
「隧道」を進んで地上に出ますと、こんな景色が広がっています。
コールテン鋼の「隧道」右手に見えますのは「光学硝子舞台」です。
相模湾の水平線を背景にして、このガラスの舞台が檜の懸造り架構の上に浮かぶように配置されています。
そして「光学硝子舞台」の観客席は、古代ローマの円形劇場遺跡(イタリア、ラツィオ州フェレント)を実測して再現したものになっています。
敷地内の1つ1つの建築・ランドスケープの要素には、時間と空間のスケールの大きさが与えられ、特別な存在感を放つものばかりで・・
とにかく圧倒されます。
まだ他にも紹介したい写真もありますが・・
ブログも少し長くなってしまいました。
ここで一度区切りにさせていただき、また後日のブログでお伝えしたいと思います。
よろしければ、次回「江之浦測候所の見学会/後編」も見ていただけますと幸いです。